いろんなタイプのホラーが詰まったオムニバス。 各エピソードはガッツリ怖いです。ぐいぐい読ませる。 また構造的に面白いのが、「タイトルと実際の百物語、主人公の年齢と家庭環境」のギャップです。 記録によると百物語は「100個目を話してしまうと、怪異に見舞われるため99個まで語って朝を待つ」のが正式なやり方とされています。 しかし、本作一話目で「全部終わった時に本物の幽霊が出るんだって」と主人公が話しています。 さらに、毎話の始まりと終わりに挟まれるカットで、どうやら主人公の家庭環境が普通じゃないことがわかってきます。 ここでメタ的に、いくつか結末が予想できます。 ① 本作は全十巻・全百話で構成されている? ②-1 100話目を話してしまって、怪異に見舞われて死んでしまう?(タイトル回収) ②-2 99話を話し終えて、最後の百話目で「家庭環境がもたらす災厄」で死んでしまう?(ある意味タイトル回収) 怪談を一つ語るたびに少しずつ主人公の家庭環境について話が進みますが、それが②-2の結末につながる終え方もあるので読者は読んでいる間ずっと気が抜けないんですね。 また本作をより怖く感じるのに一役買っているのが、 「主人公が小学校低学年という年齢上、客観的事実、いわゆる神の視点で見えるものが正しいかどうかがわからない」という部分です。 主人公の自室から聞こえる情報だけで想像するしかないのですが、ここがそもそもボヤけているのがより怖くしているポイント。 とても面白い作品です。最後まで追いかけたいと思います。
by せーふぁ (1046)劣勢だった日露戦争で、日本を絶体絶命の危機から救った、大日本帝国海軍中佐・秋山真之(あきやま・さねゆき)作戦参謀。彼を主人公にした、史実に基づく壮大なストーリー。明治7年、秋。四国・松山に秋山淳五郎真之という6歳の少年がいた。淳五郎をはじめとする侍の子供たちは、武士が職を失ってすぐのこの時期、町人の子供たちにいじめられていた。だが淳五郎はどんな仕打ちを受けても決しても怯まず、仲間を助け、相手に立ち向かっていく…。
日露戦争の名参謀として第一艦隊の旗艦・戦艦三笠に乗艦、ロシアのバルチック艦隊の迎撃作戦を展開し、日露戦争の我が方の勝利に大きく貢献した海軍軍人「秋山真之」を主役に吸えた歴史漫画。 秋山真之が主役というと「坂の上の雲」が想起されますが、本作はそのコミカライズなどではなく別作品です。 ストーリーは、松山城下町で暴れ回る秋山真之(淳五郎)6歳の頃から始まります。 いじめっ子たちを権謀術数で従え、松山一のガキ大将となった淳五郎と、後に「日本騎兵の父」と呼ばれる兄の秋山好古、親友の正岡昇(正岡子規)の幼少期から、二宮忠八、白川義則、南方熊楠などと出会い、大きな世界のうねりに飲まれず突き進んでゆく様が描かれています。 基本的に史実に基づきますが、特に序盤はエンターテイメント性の高い表現がされていて、楽しく学べるものとなっています。 秋山真之だけではなく同時代の歴史上の偉人達にもスポットがあたっていて、一時期秋山真之らを教えていた高橋是清や、正岡子規の学友だった夏目漱石などなどについて逸話や人物像が挿入される作りになっていて、とても楽しめます。 また、清国から独立し近代化を目指していた金玉均らのクーデター、その顛末も脇道に逸れる形で描かれるなど、同時期の世界の動きも描かれています。 作中に描かれる内容は並大抵の取材、知識で得られるものでは無い、大変情報量が多くて為になる内容だと思いました。 私見となりますが、右でも左でもなく、ただ史実をわかりやすく面白く伝えようという感じがしました。 この手の題材は思想が偏向しがちな感じがしますが、マンガ的表現を加えることで一歩下がった見方ができているので、歴史を学ぶために手に取るにもオススメします。 ただ、残念なのは終盤で、タイトルにあるの日露戦争に入る以前の、日清戦争が終戦する前までですっぱりと終わってしまいます。 日清戦争に入ってからは文字の比率が圧倒的に多く、背景は銃声の「パンパン」という文字で埋められています。 内容の濃さは変わらず、日本側の軍人の考え、動きや、軍関係者、特に明治天皇陛下の心中の描写まであり、凄まじい量の努力が裏にあったと感じられ、興味深く読みましたが、大衆向けのエンターテイメントではなく、興味がある人向けの難しい内容になっています。 歴史に興味がある人には凄く夢中になれると思います。 何せ日本だけではなく清国側の軍人達についても描かれていて、字が多いとはいえマンガ形式で読めるのだから、これは他にはない名著と思います。 それ故に途中終了してしまったのが残念。どんどん一般向けでなくなっていったので、仕方ないのかもしれないですが。 作者の江川達也氏は、氏に対する批判の声も多いですが、本作については描ききれていない点については残念と思うものの作品自体は素晴らしいので、多くの人に読んで欲しいと思います。
by うにたべたい (528)