うにたべたい
3.9
主人公の「道端たんぽぽ」は、平穏な日々を過ごす普通の中学生二年生でした。だが、ある日、彼女は『無作為選出対象者無視法』、通称"くにはちぶ"という法律の対象者に選ばれてしまう。"くにはちぶ"に選ばれた者は、何をしようが国民全体で"無視"しないといけない決まりで、無視しなかった者は監査官により現行犯逮捕されてしまう。仲の良かった友人からも大好きな家族からも無視され、何があっても助けてもらえなくなり、やがて精神的に追い詰められていくという、ヒューマンサスペンスマンガ。はっきりいって設定に矛盾が目立ち、とにかく荒が気になりました。例えば、開始早々に無視対象者を監視するため主人公の周辺至る所にカメラが設置されるのですが、その費用や監視役の給金もこの法律のため税金から支払われるのか、とか、無視対象者が海外に行ってしまったらどうするのか、とか、匿名性のSNSや電話で名乗らなかったら無視のしようがないんじゃないか、とか、そもそも見ず知らずの他人に話しかけたとして、対象者と気づいて無視するとか実際無理なんじゃないかとか思いました。また、『国民全員が何をやっても無視する』ということは、裏を返せば無視期間中は犯罪し放題なわけです。一年間無敵の人となるので、私なんかが選ばれた日には、速攻で盗んだバイクで走り出し、眠くなったら他人の家に上がり込み、飯は勝手に高級料亭のできたてを拝借し、ライブも映画も見放題です。大抵の人は「くにはちぶサイコー」となる気がするのですが、こんな法律が"他人の心を思いやる気持ちを育む"ことにつながるのだろうか。学校も仕事もいかなくていい"くにはちぶ"は、各所へのフリーパスチケットが付いた1年の休暇をもらったようなものなので、正直デメリットが感じられないと思いました。そういうわけで、最初はなんて甘い設定なんだと思い読み進めていたのですが、これが意外におもしろかったです。くにはちぶ期間の1年間、ひきこもってアマプラ観て終わったらストーリーにならないので、主人公は無視されながら学校に通い、その中で車に轢かれたり家族に踏まれたりします。大事な友人や先輩も逮捕されてしまい、当然ながら他の生徒からは「学校に来てほしくない」と思われます。そりゃそうだと思ったのですが、途中から、"そもそもこんな法律作った国が悪い"という方向へストーリーがシフトしてゆきます。くにはちぶを打倒する人々と出会い、法律を作った政府と、それでも表向き上無視されながら戦う姿はなかなか良かったです。終わり方もキレイで誤読感も良く、最後まで読むと悪くなかったと思いました。序盤はツッコミどころがたくさんあって気になりますが、最後まで読んでみるのをおすすめします。
くにはちぶ
レビュー(37)件
既刊12巻