マオ39 さんのレビュー

1

5.0

1巻まで読みました

このレビューにはネタバレを含みます。

親の再婚で義姉妹となった小春とひより。この作品は、そんな二人が"釣り"という共通の話題を通して絆を深めあっていく様子を描いた日常系漫画である。字面だけ見ると「新米姉妹」を彷彿とさせるが、作品の方向性は「新米姉妹」とは大きく異なる。「その変わった父は、三年前にとてもポピュラーな病気で亡くなってしまった」どこか他人事めいたモノローグと共に、父の遺したフライフィッシングに勤しむひよりから物語は始まる。父の死に塞ぎ込んでいるわけではない、現実はきちんと頭で受け入れつつ、それでも父との思い出に縋らずにはいられない、そんな"痛ましさ"を感じる少女に、胸をきゅうと締め付けられる。けれど、突然できた2ヶ月上の姉、釣りに興味を持ってくれる女の子、天然だけどいつも元気で周りに笑顔を振りまいてくれる―――そんな小春に、ひよりの心は救われていく。「なんか、最近……釣りが楽しい」「それは、きっと……」"日常"というものは普遍的なもので、当たり前のこと。そんな前提で描かれてきた日常系漫画とは一線を画す(そういう日常系漫画を否定してるわけではない。むしろそんな漫画の方が深い場合も多い)。三年前、父が亡くなったときから凍りついてしまったひよりの日常を、小春が溶かしてくれた。彼女らにとっては、「ようやく手に入れることができた日常」なのだ。だから僕らは、ひよりや小春が幸せそうにしていると癒やされる。日常系漫画によくある、「関係性の変遷」の描写はほとんどない。ただひよりたちが幸せそうにしているのを眺めているだけで、僕らは満足なのだ。これは、所謂「新日常系」と同じような楽しみ方ができる作品だと思う。日常の尊さを視覚化し、それを享受するキャラクターたちを眺めて幸福を追体験する。これが、スローループが日常系漫画として完璧たる所以だ。
漫画作品としての評価も高い。これは実際に読んでもらったらわかると思うけど、アングルの使い分けがめちゃくちゃ巧い。そのおかげで釣り漫画としての躍動感がバリバリ出ている。釣りキャンプの時のひよりの釣りシーンはスタイリッシュすぎて惚れる。その他にも1話と6話で「釣る側」「アシストする側」が反転して小春の釣り人としての成長を見せたり、高いところが苦手な小春にひよりが手を伸ばすシーンで、過去にひよりも父親に手を引いて貰ったという回想を重ねたり(多分このシーンにもめちゃくちゃ意味あるんだろうな)、とにかく色んな構図を見せてくれる。他にもキャラクターたちが感情を露わにするシーンではトーンバシバシに貼って演出してくれるし、上述したアングルの使い分けで大ゴマや見開きはとんでもない迫力。キャラクターたちが幸せそうにしているだけでも泣きそうになるのに、その上演出と表現力で殴ってくる。誰も勝てないよ。
恋ちゃんのこととか、「家族の形」という作品共通のテーマについてとか、釣り漫画としてのスローループとか、語りたいことはまだあるけれど、それは個別に語った方がいい気もするので、とりあえずここまで。
スローループは、間違いなく歴史に名を遺す作品になると思う。まだ買ってない人がいたら買ってみよう。古参ぶるなら今のうちだぞ!俺も釣り始めてみようかな〜と思ったけど、昔生きた魚触れなくて挫折したの思い出してやめた。

スローループ

レビュー(59)件

既刊8巻

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