電気メーカー部長、島耕作が、仕事と恋に、熱くかつスマートに取り組んでいく『部長島耕作』シリーズのバイリンガル版。全巻、ふきだし内のセリフは英語で書かれ、それぞれのコマの枠外に日本語が小さくついている。どのセリフがどの日本語に対応しているか、目を泳がせる必要がなく無理なく読み進めることができる。 <p> 「日本の会社」を舞台としたリアルな設定なので、上司と部下の関係、クライアントとの関係のなかで誰もが自然に使うが、英語では難しいと感じる微妙な敬語の使い分けが学べるのがありがたい。会議の場面で使われる英語などは、実際にプレゼンテーションをする必要がある際に役立つだろう。 <p> 第1巻となる本書では「企業のっとり(hostile takeover)」に対抗すべく、島耕作が奔走する。「のっとり」などというと、難解な英語ばかりが登場すると考えがちだが、「株主総会」が「shareholders meeting」など意外と平易な表現で事足りることがわかる。ビジネス英語に抵抗がなくなる1冊だ。(門倉紫麻)
11世紀初頭、紫式部によって書かれた『源氏物語』は、平安朝の宮廷を舞台に貴族たちの人生の錯綜を描いた世界初の長編物語。その後古今東西貴賎を問わず1000年にわたり読み継がれてきた「源氏」は、時代とともにさまざまに変容してきた。絵画や工芸、能、現代日本語訳に外国語訳、コミック…。そして、21世紀を目前にして、さらに進化したバイリンガル・コミックとして新たな姿を現したのである。 <br>大和和紀のコミック版源氏物語「あさきゆめみし」は、原典をしっかり読み込んで書かれた「名著」。コミックでは絢爛豪華な宮廷社会がビジュアル化され、はるか昔の世界を容易にイメージすることができる。それに、宮廷の「公」生活よりも、恋愛の苦しみ、舅姑、親子の確執に悩む「私」生活が中心に描かれるので、そこで繰り広げられているのは厳かだけれども結構赤裸々な日常会話。バイリンガル・コミックは英会話の練習帳にもなりそうだ。 <br>ちなみに、「若紫」の巻で光源氏が紫の上に出会う場面はこうなる。 <p>「雀の子を犬君が逃がしつる。伏籠のうちに籠(こ)めたりつるものを」(原文) <br>「雀の子を 犬君(いぬき)がにがしてしまったの 伏せ籠(ふせご)にいれてあったのに」(現代文) <br>"I was keeping it under an upturned basket ... Inuki let the baby sparrow go!"(英語訳) <p>外国でも人気の源氏物語だから、世界中の日本文学研究者にとってもありがたい本。(松本肇子)