ピンクの銃を持った、ピンクの髪の謎の小娘バンビが暴れまくる、アメコミ系「バイオレンス・ロード・コミック」。裏社会のボスのもとから「未来を握る少年」を連れ去ったバンビは、依頼主に少年を届けるため、彼女を狙う賞金稼ぎたちと追いつ追われつの旅に出る。額を撃ち抜かれ飛び出す眼球、切断された手首…。その行く手には血の海と化した修羅場が待っていた。 <p> 本作の魅力は何と言ってもバンビの破天荒な超人性、ピカレスクぶりにある。かわいい容姿に反した狙撃能力、手錠を素手で引きちぎる腕力。腹が減れば何のためらいもなくコンビニを襲撃する。店員を脅し、銃で殴りつけながら、にんじんをかじり、プロテインの錠剤を頬張り、エビアンで飲み下す。そしてそんな異常な状況にあっても、大好きな幼児向けTV番組「クマのペーさんショー」に夢中になれるバンビは、筋金入りの幼児性の持ち主なのである。 <p> だがそんな彼女でも「ほんとはこんなことしたくない。バンビ、長生きしたいんだもん」と弱気につぶやく日もある。旅が続くにつれ、見えてくるバンビの過去。クールでドライ、スピーディでダイナミック、そしてほんのちょぴりセンチな暴力漫画の登場だ。(中山来太郎)
自称「漫画芸術家」男とコスプレイヤーOLの怒濤(どとう)の恋愛サバイバル。人一倍自尊心の強いオタク気質同士の2人の恋は、一見キワモノ的に見えるかもしれないが、ここに描かれているのは、あまりにも純粋な自分の宝物を心に抱えてしまった、愛すべき人間同士のまっすぐで不器用な純愛である。 <p> お互いに相手の大切にしているこだわり(男は石で作った漫画芸術、女はコスプレ&同人誌)をまったく理解しあっていない、というところから始まった恋が、順風満帆に進むかといえば、もちろんそんなわけがない。負い目、打算、思いやり、慰め、疑心暗鬼、しっと、焦燥、怒りなどあらゆる感情が、周囲の視線、嘲笑、経済状況などと一緒に次々と2人に襲いかかる。いたわりや愛情とともに、無意識下に潜む主導権を握りたいというエゴ、自己欺瞞(ぎまん)、迷い。ひょんなことからスイッチが入る痴話ゲンカの鬼気迫るすごさと、ぎこちなくも優しい歩み寄り。 <p> そこには、どうにかしたいけど、どうしたらいいんだろう?と繰り返し悩む純情な2人の、おかしさやせつなさ、危なさが見事に浮き彫りとなっている。とてつもなく濃密に、生々しく。そして著者、羽生生の荒くドロドロだが常に切れ味のある稀有な画風が、数々の強烈なシーンのインパクトを倍増させる。 <p> 他人と恋愛し、同棲することによって、必然的に発生するすべてがこの物語に凝縮されている。当たり前のことを当たり前じゃないやり方で描ききった、迫真のラブストーリー。いびつだが、確かに輝く、愛のかたち。(横山雅啓)