自称「漫画芸術家」男とコスプレイヤーOLの怒濤(どとう)の恋愛サバイバル。人一倍自尊心の強いオタク気質同士の2人の恋は、一見キワモノ的に見えるかもしれないが、ここに描かれているのは、あまりにも純粋な自分の宝物を心に抱えてしまった、愛すべき人間同士のまっすぐで不器用な純愛である。 <p> お互いに相手の大切にしているこだわり(男は石で作った漫画芸術、女はコスプレ&同人誌)をまったく理解しあっていない、というところから始まった恋が、順風満帆に進むかといえば、もちろんそんなわけがない。負い目、打算、思いやり、慰め、疑心暗鬼、しっと、焦燥、怒りなどあらゆる感情が、周囲の視線、嘲笑、経済状況などと一緒に次々と2人に襲いかかる。いたわりや愛情とともに、無意識下に潜む主導権を握りたいというエゴ、自己欺瞞(ぎまん)、迷い。ひょんなことからスイッチが入る痴話ゲンカの鬼気迫るすごさと、ぎこちなくも優しい歩み寄り。 <p> そこには、どうにかしたいけど、どうしたらいいんだろう?と繰り返し悩む純情な2人の、おかしさやせつなさ、危なさが見事に浮き彫りとなっている。とてつもなく濃密に、生々しく。そして著者、羽生生の荒くドロドロだが常に切れ味のある稀有な画風が、数々の強烈なシーンのインパクトを倍増させる。 <p> 他人と恋愛し、同棲することによって、必然的に発生するすべてがこの物語に凝縮されている。当たり前のことを当たり前じゃないやり方で描ききった、迫真のラブストーリー。いびつだが、確かに輝く、愛のかたち。(横山雅啓)
「コミックビーム」誌連載の異色のサスペンス漫画、第1巻。 <p> 仕事、家庭、人生に行き詰まった編集者、安対武。起死回生をねらう彼は、人気漫画家、差能構造の新連載を取るべく、差能の住む沖縄に向かう。しかし大ヒットというひとつの頂点を極めた差能は、今や漫画を描くことに対する一切の熱を失ってしまっていた。なんとか差能に漫画を描かせたい安対は、話し合いのために彼を夜の繁華街に連れ出す。しかし、そこでヤクザに絡まれた結果、2人はどうにもならない大きなうねりに巻きこまれ、その渦中で差能は新たなる「熱」を発見する。その「熱」とは、「人を拳銃で撃つこと」であった…。 <p> 漫画家と編集者としてではなく、対等のヤクザとしてコンビを組むことになった2人のバランスなど、設定がとてもおもしろい。1つのめぐりあわせで始まった連鎖反応で展開していく物語は、後戻りの出来ない緊張感に満ちていて、牽引力がある。そして何よりも、狂気と恍惚(こうこつ)の入り混じった圧巻の表情描写が凄い。常識的な考え方では納得できないところも多々ある登場人物の心境や行動に、素晴らしい説得力を与えている。 <p> どこに飛んでいくかわからない物語の行方は、1巻収録分だけではまだまだ見えてこない。だが、この一寸先は闇の道を高速で突き進んでいくかのような、狂ったドライブ感は、体感の価値充分にあり、である。(横山雅啓)
偶然、高校時代の先輩・別所文代と再会した田島毛。モテ男の田島毛には愛人が複数いて、しかもその清算の必要に迫られていた。田島毛の話を聞いた別所は、ふと、この状況が太宰治の小説『グッド・バイ』にそっくりだと呟く。それを聞いた田島毛は奇妙な一致に感激して…「僕も小説みたいに『グッド・バイ』します!」「きっと全部運命なんですよ!」太宰の『グッド・バイ』を愛人関係精算の教科書として真似、つつがなく別れていく計画を思いつく。こうして、別所を巻き込んでのドタバタ愛憎劇が幕を開けた! 太宰流のユーモアを現代によみがえらせる、オリジナル・変調コメディ!!
話題の映画を、異能の傑物が前代未聞のコミカライズ! TSUTAYA CREATORS'PROGRAM FILM 2015準グランプリ受賞の映画(出演:池田エライザ オダギリジョー)を、『恋の門』『俺は生ガンダム』の異才が漫画化!
地球がわが家の自由な浮浪者3人組と、ひょんなことから転落人生真っただ中となったギャルのカルテットが繰り広げる、近未来サイバーパンクおとぎ草子。 <p> 自称、町内宇宙パトロールなので何者にも縛られない。違法行為をあっけらかんとやってのけるが、決して人の道から外れすぎることはしない。そんな彼らの引き起こす、他人も世間も巻き込んだ大騒動。社会通念や常識から、遠く離れたむちゃくちゃな発想に基づく彼らのでたらめな妄想と行動は、終始読者の爆笑を誘う。 <p> 一方で、天気がいいから月にでも行こうと口にするや、瞬く間にロケットを作りあげてしまう彼らの行動力は、単純にギャグにとどまらない痛快さも感じさせる。実際にそのロケットが飛ぶか飛ばないかは問題ではない、と言わんばかりの粋な魅力がそこにある。 <p> ただ生きる。それだけでとにかく楽しそうな彼らのギリギリの暴走が、羽生生の硬質なのに生き生きとした線で描かれる。そこには理屈の中で生きることに窮屈さを感じているような人間が、ハッとする瞬間が隠されている。アクの強いユーモアに笑い転げた後に、ふとしみじみとしてしまうような、不思議な読後感。世界を満たす不条理を、当たり前のこととして平然と受け流す流浪の生活者たちの懐の深さが味わえる。 <p> 「で、ワガランナァーってどういう意味?」 <br> 答えは本編の中で。<div align="right">(横山雅啓)</div>