1巻
故・阿久悠の作詞家としての偉業は今さら語るまでもない。しかし、彼がマンガ界にも大きな功績を残していたことは、意外と知られていないのではないか。 大学卒業後、阿久は広告会社に入社。そこで同僚だったのが、上村一夫である。2人とも早々に退社してしまうのだが、数年後、阿久が雑誌の挿絵に上村の名前を見つけたことから再会。それが縁で、上村が初めて劇画を描くことになったときに原作を務めたのが、阿久だった。 もちろん、上村ほどの才能があれば、いずれ世に出たことは間違いない。ただ、阿久との出会いがなければ、劇画の道には進まなかった可能性はある。実際、上村の初期の連載の多くは阿久原作。のちの傑作『同棲(どうせい)時代』などに描かれた男と女の情念の世界は、阿久との仕事によって培われたものかもしれないのだ。 そんな阿久+上村コンビの作品のなかでも、阿久ならではの詞の世界が色濃く表れたのが本作。高度経済成長から取り残されたような寂れた港町を舞台に、体を売ることでしか生きられない女たちの愛憎を艶(つや)っぽく描く。タイトルは『男と女の部屋』だが、主役はあくまでも女。いずれも哀(かな)しい境遇ながら、どこか達観したかのような強さがある。彼女らの前では、男は道化にすぎないのだ。価格は少々高めだが、作中に登場する阿久の詞を山崎ハコが歌うCD付き。目と耳で、昭和の哀歌を堪能すべし。 小池書院、2100円。73年刊行の作品。新たにCDなどをつけた。