生きている以上は、必ずどこかでどうしようもないことが厳然と目の前に立ちはだかる。たとえば、悩める童貞男子にとってのセックスがそれにあたるだろう。『チェリーボーイズ』は、タイトルそのままの20代半ばの童貞3人組が、立ちはだかる巨大な「無力感」という壁に対し、悩みながらも自分たちのやり方で立ち向かう小さな冒険劇だ。 <p> かつて誰もが童貞であり処女であったという当り前の、しかしなぜか見過ごされやすいその事実にきちんと基づいて、著者は3人組の脱童貞作戦を毅然とした態度で描いていく。作戦内容自体は最低なのだが、その身勝手な作戦に取り組む彼らの情けなくも真摯なひたむきさの中に、どこかに置いてきてしまった大切なものをふいに発見させられもする。「童貞」を簡単にあざわらえるような人が忘れてしまった、何も知らなかったころに見た、世界中に満ちあふれていた輝きを。 <p> そしてその輝きは、作戦のクライマックスにおいて3人組の前に降り注ぎ、かっこ悪すぎてかっこいいラストシーンを照らし出す。ただそれをやり遂げるだけでは得られない大切なこととは何か? その答えを、この愛すべきチェリーボーイズと共に探索してほしい。(横山雅啓)