竹岡葉月さんの作品の書影

竹岡葉月

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fknk

fknk
1年前

4.5

4巻まで読みました

このレビューにはネタバレを含みます。

ほぼすべてネタバレなので注意。

悪人や歪んだ性格のキャラを(一人を除いて)使わずに、
上手く紆余曲折を成功させているのが巧み。
結局のところ、キャラがかわいいからこそ、
ストーリーに引き込まれるのだなあと感じた。

普通の恋愛漫画を描くときには、
紆余曲折あったけど、最後は結ばれました!ですべてがうまく行く。
しかし失恋を描くときには、読者にその結末を納得させるための、
きちんとした理由付けが必要になる。

この漫画の賛否両論は、"納得感"によるところが大きいと思う。
説明不足の感もあり、どうして二人は別れたのか、
人によっては、不完全燃焼を感じただろう。

ただひとつ確かに言えることは、
物語はけして中途半端に終わったわけではなく、
二人が"無事別れ切ることができた"という、
ある種のハッピーエンドだった、ということだ。
最後のインスタグラムの描写を見ればわかる通り、
二人はもはや友達としてすら、連絡を取らなくなっている。

"恋愛とは憧れること"だった二人の関係は、
離れて過ごした数年の間に変わっていった。
葵にあこがれて自分を変えていった佐穂子のことを、
葵は結局のところ、昔のように純粋に愛することができなかった。
また、佐穂子に憧れて変わっていった自分が、
昔と同じように佐穂子が憧れる自分だとも思えなかっただろう。

佐穂子はそこまで強烈な愛は持っていなかったように見える。
友達として葵との関係をやり直せると信じていながら、
漠然と避けられている状態に困惑していた。
佐穂子はすべてのシーンで"私も同じだ"と言っているが、
二人がお互いに抱く感情は明らかに異なっている。

佐穂子にとっての葵との別れは、
葵の中にあこがれを見出せなくなったというよりも、
「あのときキスを受け入れることができなかった」という事実が
二人の関係を曖昧なままにしてきたことへの未練があり、
その事実を乗り越えたうえで別れを選ぶことにした葵の判断を
尊重したのが佐穂子にとっての"落としどころ"だったと言える。

ホテルに行こうと提案し、あのキスからやり直せるか聞いた佐穂子、
お互いに憧れあい、変化してきたことを意識している葵、
最後のエピソードは、そんな二人の差を明確に描き分けている。

佐穂子が葵に感じた肉体的嫌悪感は、
"同性愛"そのものへの一般的な嫌悪感だったのだろう。
その隔たりが「あの時」二人の関係を引き裂いた結果、
佐穂子がその嫌悪感を克服した時にはもうすでに、
二人は愛しあっていたあの時の姿ではなかった。

葵が手紙の中に描いた「あの時は傲慢だった」という一言、
そのたった一言から滲み出るものが一番切なかった。
佐穂子が同性愛を受け入れられるまで、待てていたならば、
二人の恋愛は成就していたかもしれない。

しかし結果的に、二人は一生忘れることができないもの、
もう触れることはできない「あの時あの場所の関係」
移り変わっていく実際の恋愛とは違うものとして永遠に残り続ける
恋愛より大切なものを手に入れたとも考えられるのではないか。

愛と憧れの線が引けない、というのは結局のところ、
目の前の愛する佐穂子と、記憶の中の憧れの佐穂子を、
割り切ることができないということだ。

友達としてやり直さず、完全に別れたのは、
記憶の中の憧れとしての佐穂子を守るためには、
目の前の佐穂子と別れる必要があったということだ。
妥協する愛が許されないほどに、
記憶の中の像は完成してしまっていた。

読み終えたときのぐっと胸をわしづかみにされるような切なさ、
こういう感情を覚えさせてくれる作品はそう多くはない。
4巻という短い巻数でありながら、巧みなエピソード配置で、
長い年月を感じさせる、見事な構成の作品だった。

今日、小柴葵に会えたら。

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