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28

5.0

"ネットは横並びにする性質を同調圧力に変えて「痛い」ことの否定を推進していく。ちょうど、「中二病」という言葉を流行させたことで、現在進行形の中学生にそのように振る舞うことを自制させたように。…(中略)だが、最果タヒは決してそうしなかった。詩は、言葉をエンパワーメントする芸術である。それはつまり言葉に対して「やり過ぎる」ことではないのか。そして詩人とはだれもが当たり前に使えていると思っている言葉を、他人と差別化して、最大限に「やり過ぎる」ことができる人物でなくてはいけない。…(中略)だから本来なら「痛い」詩人がいるのではなく、詩人は「痛い」ものである。ならば、自分はその若さが生み出すいかにも「痛い」言葉をこそエンパワーメントしていく。かけがえのない美しさに昇華していく。最果タヒがやったことはそれであった。"

さやわか 『世界を物語として生きるために』 所収「ペインキラーは要らない」より



言葉が獣の形で見えるという共感覚の持ち主・東雲さんと、詩が好きだが自分の中のその気持ちに対してどこか腰が引けているやっけん。クラスメイトの二人が、共同のツイッターアカウントを作って美しい言葉を探す。


"何気なく呟いた言葉が偶然一篇の詩になることは美しいけど
美しいものの輪郭を見たくて詩を書くことだって慈しむべきなんだ
それなのに詩を書くことを馬鹿にする風潮はどこまでも消えない
でも何かを言葉で掬いたいなら臆せず書かなければならない"

第三話「美しい呟き」より


ツイートって、詩に対して「これは詩ではない(から恥ずかしくない)ですよ」というエクスキューズを用意してくれる仕組みでもあるなと思う。
ただ、だからこそ、その場にあって「これは詩(短歌、俳句、etc.etc.)です」と表明したうえで書くことには特別な意味があるよなとも感じる。
今日びあえてそうする人々というのは、その「痛さ」を例外なく自覚しているし、その「痛み」を引き受けた上で表現しようと覚悟しているはずだ。「痛み」の価値があると信じるからそうしているはずだ。
最近ツイッターで静かに盛り上がりを見せる短歌コミュニティを見ながら、そんなことを考える。


"言葉と向き合うのは恥ずかしいことじゃないよ"

第一話「悪意なき耳と目」より


私は言葉を扱う仕事をしているのもあって、言葉をめぐる世間的な感覚というものについて考えることがよくある。
そうして時には、うんざりすることもある。
シニカルであることを知性と履き違えたような世の流れや、それに乗っかって薄っぺらな価値観を拡大再生産することに対して。
理想や希望や善性や美といったものを語るのはバカのすること、という思考停止に対して。
文学や表現がそこにフリーライドしようとするなら、それは怠慢以外の何でもないと思う。
そして、だからこそ「美しい文章を書こうとする姿勢」はそれだけで「詩」なのであって、尊い、賭ける価値のあるものなのだと考える。
それを「痛い」と呼ぶのならそれでも構わないが、その「痛さ」をセーブしない言葉によってだけ掬い取れる「痛み」があるはずで、そういう言葉はきっと美しいだろうと思う。

まっすぐに言葉をエンパワメントしようとするこの作品が同時代にあってくれることを、心強く思う。

言葉の獣

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りん

kilim856
2週間前

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