魚豊

地動説と天動説の宗教論争を元に、フィクションを交えて再構成された壮大な歴史もの。科学や哲学等の知識、またそれらに関連する人物は実在のものが使われていますが、地動説を異端として弾圧する「C教」はモデルとなった宗教よりずっと過激で抑圧的な思想となっています。天動説と魔女裁判が合わさったようなイメージですね。真理を追い求める一部の者たちが、犠牲を出しながらも研究結果を次世代へ託していく非常に知的好奇心が刺激される秀逸な作品です。
ロマン溢れる科学描写も素晴らしいのですが、この作品の凄いところはそれに神や死といった宗教的な概念も絡めている点にあります。人が住まう地上は混沌としているが、その試練を乗り越えたとき、人は美しい天国へ行ける。――でも地が天と一緒に動くなら、世界がもっと単純な理屈で出来ているならば――地上もまた美しく、神に愛されて作られたものだと証明できる。神に愛されているならば、世界に希望が持てる。地動説という科学が、魂の救済にも繋がっているんですよね。
また既成概念を打破する、何も疑問を挟む余地がなかった「普通であり、当たり前のこと」を疑うという姿勢は、現実においても大いに参考になるものだと思います。
多少難しい内容もありますが、細かいところは読み飛ばしても充分理解できますし、漫画関連の賞レースに多数ノミネートされるなど、各所で注目を集めている作品なので一度読んでみたらいかがでしょうか。オススメです。

陸上への熱と弱肉強食の世界を独特な価値観で描かれていてそれらが組み合わさり、純粋なアツさを持つ漫画となっています。
そしてその熱量が完結までノンストップに続いていて一気に読み込んでしまった…
チ。を読んでから今作を読んだけど、テーマが異なっていてもこの作者には一貫した哲学が存在し、独自の言葉や表現でダイレクトに伝わってきます
そしてそれらの伝達のために話が紡がれ、意外性のある展開が自然と繰り広げられる。
決して狙ったり印象を残すためだけにその展開が採用されているわけではないように感じられ、そこがまたカッコイイ…！だからこそストーリーの王道も邪道も違和感なく楽しめるのでは

しかし小学生時代から異常に達観している主人公達がシュールに感じられ少し笑ってしまいました…
あとなぜか、この味のある絵柄でオリジナリティ溢れる話作り、かつての新都社の傑作を読んでる時と同じ感覚に

「地動説」を証明するために様々な人々が感動、思い、考え等を繋いでいく物語。
チ。には地球、知識、地動説、様々な意味が込められていて深く熱い。

ラファウの迷いや成長、理屈や直感。そして最終的な決意. ．．素晴らしいです。