尾瀬あきらさんの作品の書影

尾瀬あきら

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25

4.5

12巻まで読みました

明治26年 冷害の酷い年、山形県のとある村に住む青年・阿部亀治は、参拝の帰り近隣の田んぼで冷害に耐えて実っている3本の穂を見つけました。
力強いが育成の難しいその穂を、亀治は試行錯誤の末に収穫できる量を育成することに成功する。
亀治の名から「亀ノ尾」と命名されたその穂は、長年、品種改良を続けながら作られ続けていた。
だが、1970年代には「亀ノ尾」自体の栽培は絶えていた。
その「亀ノ尾」の貴重な種籾を譲り受け、1983年に復活した「亀ノ尾」で作った吟醸酒「亀の翁」が作られた。

本作は、幻の酒米を復活させ極上の酒を醸したその出来事を下敷きにした作品です。
主人公は都内の広告代理店でコピーライターをしている佐伯夏子。
彼女は造り酒屋の長女で、実家の酒蔵では兄の康男が、幻の酒米「龍錦」を使った、日本一の日本酒を作るという夢に向かって動いていました。
だが、康男は病に倒れ、夢半ばに帰らぬ人となってしまう。
葬式に帰郷した夏子だが、そこで杜氏の信助に、1350粒の種籾を渡される。
それは、生前、康男が倒れる直前に杜氏に託した幻の米、龍錦の種籾だった。

そして物語が動き出すのですが、日本一のお酒作りをするに至るマンガの米作りから始まる。
と思いきや、米作りの前の田んぼの準備から始まります。
と思いきや、田んぼの土地の確保、協力してくれる農家への呼びかけ、それ以前に、主人公の夏子は東京でコピーライターをしており、主人公の気持ちに火がつくところから物語が開始します。
そう考えると、結構気の長い話で、実際酒造りに入るまで、いろんな紆余曲折、心境の変化、いいこと悪いことが置きます。もちろん、酒造りに入った後も。
そういったいろんな"もうダメかもしれない"を乗り越えた先に神の雫が溢れた瞬間は素晴らしいカタルシスでした。
連載当時、本作をきっかけに日本中で日本酒や米作りに対する関心を集めることとなり、日本酒ブームを生み出したそうですが、それだけのことがあると思います。

田作りから瓶詰めまで、酒造りの基本工程を知ることができるのも魅力です。
ただ、作中の農薬に関する記載についてはやや思想めいたところが感じられました。
作者は十分取材をした上で、農薬を使用する利点についても触れているのですが、一つの観点として読むべきと個人的には思います。
また、金の話題が出ただけで微妙な顔をする夏子のまっすぐすぎる性格がうまく表現できているところなのかなと思いました。
最初から最後までまとまりもよく、読みやすい名作でした。

夏子の酒

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