1878年(明治11年)、動乱の幕末は遠ざかり、 長崎では海外貿易で莫大な利益を得る商人が多く現れはじめていた。 西南戦争で親を亡くした少女・美世(みよ)は 奉公先を求めて鍛冶屋町の道具屋「蛮」(ばん)の扉を叩くが、 そこで彼女を待っていたのは、店主・小浦百年(こうら・ももとし)が パリ万博で仕入れてきた最先端の品々と、 それらに宿るベルエポックの興奮と喧騒だった…… ジャック・ドゥーセのドレス、ダニエル・ペーターのミルクチョコレート、 シンガー社のミシン、セーラー服、エジソンの蓄音機、 革ブーツ、眼鏡、幻灯機(マジック・ランタン)…… 先進と享楽の都・パリ渡来からやってきた〝夢の品々〟に導かれ、 少女はまだ見ぬ世界へ歩み出す……
「ごめんね寂しか思いさせて……大丈夫そうそう長くは待たせんけん……」遠く響く三味線に異国の言葉が混じり合う長崎丸山。絶世の花魁と重い病を抱えた一人の男の過去が、やがて密やかな“愛と死”の物語を紡ぎ始める……“世界”がいち早く評価した孤高の俊才・高浜寛が、長崎丸山に生きる遊女の「切なすぎる純愛」を洗練を極めた筆致で描く。国内の漫画家、海外のバンド・デシネ作家、映像作家など、ジャンルや国籍を問わず多くのアーティストたちから熱い注目を集める傑作!!<世界の巨匠たちが絶賛!!>今、最も読まれるべき漫画がここにある。知っているようで知らない時代、美しき遊女のお話。なんとも気負いのない絵と語りのうまさが際立つ――心が揺れる。高浜寛の物語表現は描く度に高まってゆく。(谷口ジロー/フランス芸術文化勲章受章作家)本作『蝶のみちゆき』の少なからぬ魅力はヒロイン・几帳が湛える穏やかな悲しみにあり、読む者を幕末・明治の遊女の世界へと導く官能と情緒にある。私たちは初期作品からずっと高浜寛の繊細な仕事に注目してきたが、彼女はこの作品により世界的コミック作家の最高峰へ至る新境地を切り拓いたようだ。(ブノワ・ペータース&フランソワ・スクイテン/アングレーム国際漫画祭大賞・文化庁メディア芸術祭大賞『闇の国々』著者)
「1回の人生やけん、好きな人と楽しく生きたら良かと思わん?」太平洋戦争前夜。新宿の片隅に咲いた、小さな、小さな恋の花。昭和初期の花園町。風俗雑誌「性ノ扉」のライター三宅至心は、取材先のデッサン教室でモデルをしていた混血の娘、アキと出会う。やがて恋が芽生え、慎ましくも賑やかな二人の生活が始まっていくが…。世界でその才能を認められた孤高の叙情派作家・高浜寛が新境地を切り拓いた初の連載作品。表現する喜び、信念をつらぬく厳しさ、誰かとめぐり逢う奇跡、愛しぬくことの尊さこれは魂の物語です。――こうの史代(漫画家)素晴らしい青春漫画の王道だ!“エロ”はどんな時代にも生きる勇気を与えてくれる。映画にしたいと思った。――行定勲(映画監督)
たまを 十四歳。廓に生まれた少女が残した季節の記憶。慶応二(1866)年、日本の花鳥風月と異国の文化が交錯する長崎・出島――早逝する宿命を背負い、美しくも残酷な季節を生きたある少女の物語。第24回手塚治虫文化賞「マンガ大賞」受賞!! 高浜寛最新作『ニュクスの角灯』『蝶のみちゆき』に連なる「長崎三部作」最終節(あらすじ)長崎・丸山遊郭の「たまを」は姉女郎・咲ノ介の禿(かむろ)として出島のオランダ商人邸に入る。炊事、洗濯、お使い……日々の労働に四季折々の風物を見つけ、医師のトーンやコックの岩次、フランス人貿易商の息子・ヴィクトール、混血児の小浦百年など個性豊かな人々との出会いに「廓の外」を垣間みる。「お前は大人にならんでええ…」かつての姉女郎・几帳の言葉の意味を測りかねたまま、たまをはいつか来る「その時」を静かに待つ――
生きていこう、まるで挫折したことがないかのように――主婦・村上詩織は睡眠薬の過剰摂取により救急搬送され、翌日、失踪。二度と戻ることはなかった……時に滑稽なほど墮ちて、墮ちて、墮ち切った先に意外すぎる結末が……人生の奈落でそっと輝く珠玉の中短編集。真っ当な社会生活から脱落した女の果てしない転落を透徹した眼差しで描く表題作の他、若くして他界した“仲間”に捧げる『ロング・グッド・バイ』、揺れる家族のひと時を切り取った『My Mellow Christmas』、など、初邦訳2作を含む傑作5編を収録。 収録作:「SAD GiRL」「崖の上の別荘」「My Mellow Christmas」「ロング・グッド・バイ」「山の方」 ※本電子書籍は底本に倣い左開きとなっておりますが、「My Mellow Christmas」「ロング・グッド・バイ」「山の方」は右開きの作品です。「SAD GiRL」「崖の上の別荘」読了後、148ページに移動いただき、逆順でお読みいただく形式になっております。あらかじめご了承ください。