この漫画のレビュー

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3.83

356件の評価

5.0

12巻まで読みました

 『甘々と稲妻』が好きな要素はたくさんあります。「飯田小鳥ちゃんがとても可愛いから(おそらく小鳥ちゃんの痛バを持っている人は私しかいないと思います)」、「つむぎちゃんはあんなに幼いのに感情移入が出来てしまうから」、「公平さんを応援せざるを得ないから」…挙げたらキリがありません。

 しかし、私の中で一番決定的なのは「敢えて哀しくしない作品である」という点です。

 この物語は、「妻を亡くし、男手一つで女の子を育てなくてはならなくなった男性の話」(公平さん)であり、「幼い頃に母親と死別し、多忙な父親に寄り添って暮らす少女の話」(つむぎちゃん)であり、「両親が自分のせいで離婚したと思い、怖くて包丁が握れないけれど、食べることが大好きな女子高生の話」(小鳥ちゃん)であり、「親友と幼馴染みが結婚をし子どもも授かったにも関わらず、幼馴染みが他界してしまい、どう助けたらよいか迷いあぐねている男性の話」(八木ちゃん)でもあります。
 彼らは想像力が豊かで、つい、自分のことを後回しにし、他人のことを考えてしまいます。
 哀しく描こうと思えば、どれだけでも哀しくできる題材です。しかし、ギド先生はその道を選びませんでした。

 「美味しいごはんを皆で作る」、「美味しいごはんを皆で食べる」に焦点を当て、その美しさや大切さを丁寧に紡いでくれました。

 哀しい話の方が共感を呼びやすい世の中を、「美味しい」と「楽しい」と「幸せ」で闘ったギド先生の勇気を尊敬しますし、その闘い方に私は感銘を受けました。
 「この作品は絶対に最後まで読まなければならない」と心に誓いました。
 最後まで読むことができたことを、心の底から嬉しく思います。
 物語はここで終わりますが、公平さんやつむぎちゃん、小鳥ちゃん、八木ちゃんたちの人生は、まだまだ続いていきます。
 武蔵境に足を運んだとき、中央線に乗ったとき、金沢に行ったとき…ふとした瞬間に、私は皆のことを思い出します。
 そして、「今日はどんな夕飯が待っているのだろう」と、我が家の食卓に想いを馳せます。

 私は料理が苦手ですが、いつか両親に、「いろいろあったけれど、大切に育ててくれてありがとう!大好きだよ!」のメッセージを込めたフルコースの手料理を作ろうと決めています。そのメニューは、『甘々と稲妻』を参考にさせてください。こんなにも心が温まり、お腹が空き、前を向いて生きていこうと思わせてくれる作品に出会えた奇跡に感謝をしながら、私も、作品の皆に負けないように、美味しいものをたくさん食べます。

 こんなにも「愛しかない」、素敵な作品に出会えた私は幸せ者です。

名作

5.0

12巻まで読みました

このレビューにはネタバレを含みます。

物語の開始時点では「父にどこか遠慮をしつつも我儘がコントロールできない赤ちゃんが抜けないつむぎ」と「娘に幸せになって欲しいと願うが何が娘にとって幸せなのか理解できていない先生」と「閉め続けている店が無くなって欲しくない、最初はその口実だった小鳥」という小さなエゴから始まった3人が、ごはん作りを通してかなり早い段階で「それぞれを思いやる」という大切さに気付く。でもこの作品はそこで終わるのではなく、思いやりを具体的な形として実らすための3人の成長がしっかり描かれているのが素敵だった。

つむぎが話数を追うごとに言葉や行動が少しづつ成長している所も大変丁寧に描かれていて、子供の成長を描いた作品は数あれど大抵は何か大きな事件・変動ごとに一気に成長を感じるパターンなのに対し、ここまで地味(褒め言葉)にヒシヒシと日々の成長を感じられる作品は他に無かったと思う。

また、先生と小鳥、八木としのぶの恋の展開があるのかな?と感じられる描写がありつつも、最終話が近づいて安易な恋愛話に走ってゴールインしてしまわ無かった所も「家族とは何か」という本編のテーマを大事にしていて凄く良かった。
もし先生と小鳥に恋愛的な進展が明白にあれば少し安直すぎるというか、早々に妻を失った先生や幼い頃に母を失ったつむぎの立場としては大変複雑になり、12巻ずっと続けてきた3人の地味(褒め言葉)な成長劇がテーマ丸ごとラブストーリーとして上書きされてしまって逆に霞んでいたと思う。
結ばれたとも破局したとも描かれていなかったからこそ、その後どうなったかも読者に想像の余地があるし、そもそも恋模様よりももっと大切な「温かいご飯を通しての思いやり」に辿りついている事が何よりもハッピーエンドに思う。恋愛だけが愛情じゃない。

最後に、レストランのコース料理ではなく、料理が全然できない初心者が作る料理だからこそ読者にも料理の想像が容易くて、ページをめくった時にあらわれる温かそうな料理にホッとやすらぎを覚えるとても素敵な物語でした。素朴だからこそ分かり合える愛情劇でした。

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