1995年から2002年の間にさまざまな漫画雑誌で発表された短編を集成。収録作品に共通しているのは、一見手抜きのようにも思える簡素な描線で描かれた人々の生活の中に、溢れるほどのブルースが詰まっているということ。 <p> なかでも、冒頭に収録の短編連作「ダウナー打法! パチゴロマモちゃん」は出色。主人公のマモちゃんは、パチスロでどんなに稼いでいても、精神的にはドツボで、常にむなしさを抱えている。でも不感症のようでいながら、ドツボにはまって助けを求めてきた知人に対し「ドツボ伝染させねーでくれよ」と怒鳴ったり、感情を荒立てることもある。そんな彼の姿からは、思いどおりにいかない人生に対する、微妙だが根の深いやりきれなさが、じんわりと確実に伝わってくる。 <p> また、短編連作というよりも断片連作といった方がしっくり来る「非国民」における、不条理描写もいい。ブラジャーをつけた半裸の八百屋のおやじ、Zカップの女…。いましろたかしは、不条理を体現したかのような彼らの姿を、肯定も否定もすることなく、繰り返し描いていく。そうやって、「ただ、あるがまま」に描写されたシーンに漂う沈黙は、ゾッとするほどに印象的だ。 <p> ほかにも、「釣れんボーイ外伝」や、「新世紀トコトコ節」など、まったりとダウナーな魅力満載の短編を収録。全編を通して、おかしさ、かなしさ、こわさなどさまざまな魅力が違和感なく混在する、いましろワールドの奥の深さをじっくり味わえる1冊。(横山雅啓)