1997年から翌年にかけて、「WEEKLY漫画アクション」にて連載された、いましろたかし流ファンタジー。仙界に住むブタ仙人の下で修行に励む、中年男牛山五郎と子熊のトンちゃんの日々を描く。 <p> いつも困り顔の、ユーモラスなブタ仙人の下での修行は、ごはんを作ったりランニングしたりと、どこか牧歌的である。そして、ポーズをつけて「お師匠」などとしゃべるトンちゃんがかわいらしいので、まったりとした印象を与える。…と思っていると、不意打ちのように痛切なセリフが語られ、読者の心を突き刺す。このあたりの呼吸の妙こそ、いましろたかし作品の醍醐味(だいごみ)といえるだろう。たとえば、途中から登場する、宇宙から何かの手違いで仙界にやってきてしまった教育ロボット、ロボ仙人。彼が、自分の教えが理解できないという弟子の田村に対し、「私は 孤独だ」と本音をつぶやくシーンなどは、静かであるにも関わらず衝撃的だ。たとえ、現実世界ではない異界が舞台であっても、いましろ作品の登場人物の苦悩がなくなることはないのだ。 <p> 物語の牽引役である牛山は常に汗をかきながら、不器用に悩み続ける。修行を積めば積むほど、牛山には新しい苦悩が訪れる。そして終盤、ブタ仙人の一番弟子の「悪霊」の出現以降、単なるネガティブな空気とは違う、澄んだ無常感が、牛山を中心として全体を覆っていく。 <p> それほど長くない作品であるが、キャラクターたちはみな印象的で、その読後感はじんわりと深い。(横山雅啓)