1巻
1987年に発売された短編集の新装版。退屈な日常のなかで、恋愛やセックスにいそしむ若者たちが、戯画的に描かれる。 <p> 岡崎京子は、とにかく作品を量産する作家であり、そのためか作品の当たりはずれの落差がわりと大きい。はっきり言って、この『退屈が大好き』には、これは傑作! とうならされるような作品は収録されていない。しかし、完成度は低くとも客観的観察に基づく、クールで的確な描写は痛快だ。 <p> 異様に元気で周りをかえりみないマイペース女や、「恋する女は小さな野獣」というタイトルそのままの恋に走る女など、生き生きとしたキャラクターたちはとてもリアルだ。全編にわたり、著者のさめた視点や的確な観察眼が堪能できる。時代の空気を反映しつつ、流行に流されない普遍的なおもしろみがあるのも、この鋭い感性のたまものだろう。 <p> 「ある意味破壊的なまでのいいかげんさ」は、本書発売当時の岡崎作品の特徴のひとつといえる。狂言回しのマドモアゼル京子の司会進行による「東京マドモアゼル劇場」や、女性たちの本音を切り取ったショートショート連作「ガールフレンド」に見られる、あっけらかんとした無責任ぶりは、爽快ですらある。 <p> セックスにまつわる話が多く露悪的な場面が頻出するが、シャープに描かれているせいか、それほど下品な印象を与えない。とにかく、パンクな岡崎京子らしさがみなぎる作品である。(横山雅啓)