この漫画のレビュー

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3.94

185件の評価

5.0

"たいていの問題は 100mだけ誰よりも速ければ 全部解決する"


小学生~高校生~企業所属の社会人選手まで主人公トガシの人生を追う、100m走を巡るクロニクル。ラフだけど力のある絵柄と、裏腹にトリッキーなマンガ表現。その裏腹な要素が生む摩擦がそのまま作品に熱をあたえるような。焦燥感に駆られるように描かれている、全部が綺麗に表現できるようになってからじゃ遅いんだ、と感じさせるような疾走感が作品全体から迸っている。
登場人物たちの誰もが、どこかネガティヴなものを抱えているのがいい。
ライバル役の小宮が、小学生時代のトガシとの出会いのシーンでこんなことを言う。


"気が…紛れるから
現実より辛いことをすると 現実がぼやける"


あるいは高校編での廃部寸前の陸上部員・浅草さんのセリフ。


""嫌"っていうのは頑張る動機になるじゃん
馬鹿にされてるからこそ得られる活力があるじゃん"



それが走る理由。
この作品は、そういう後ろ向きさに充ちていると思う。
追われることの恐怖。自分への失望。無力感。諦念。挫折。孤独。
誰もがそういう不全感を…それもまったく無視できないほど大きな不全感を…抱えてはいるけれども、しかし、それでも自分には「走ること」しかないのを、心の奥では分かっている。


"『衰えた』とか『才能ない』とか悟った時 普通 誰だって挫折します
でも1つ忠告しておきます
1位を獲ったら もうそんな理由じゃ挫折できない"

"不安とは 君自身が君を試すときの感情だ"

"トガシくんが決心したのに 平子先生が協力したのに 部長が戻って来たのに
僕は"これ"かよ
やっぱり僕はダメなんだ 僕は無力なのか…
こんな自分が嫌になる
でもッ

でも本当は!自分を嫌おうとしてる自分がっ!
一番ッ!嫌いなんだよ!!"


そういう後ろ向きなもろもろ、葛藤が、10秒間の中に凝縮され、昇華される。
そこですべて報われる。

私は超音速偵察機のブラックバードのことを思うと泣けてしまうときがある。存在自体の一途で純粋なあり方、ある機能のためだけに全てがあって、そうとしか在れない、ということ。
それと同じものを本作に対しても感じた。


"僕らは一体 何のために走ってるんだ?
そんなの当然 真剣(ガチ)になる為"


憧憬を抱く。
生きることはこういうことであってほしいと、願いすらする。
傑作。


"私さ みんなが思ってるより

速いよ"

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