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ゼイラム◁
5.0
このレビューにはネタバレを含みます。
やさしくて、さみしくて、あたたかい。釣り糸が紡ぐ家族の物語。病気で父親を亡くしたひより。海辺でひとり、釣り糸を垂らす彼女の背中には三年経った今も寂しげな空気が漂っていた。そこに思いがけずふっと吹いた風。三月の海に少しだけ早く訪れた、小さな春。――海凪 小春(みなぎ こはる)。彼女は母親の再婚相手の娘、ひよりの新しい家族だった。釣り糸が紡いだ縁。初めて出会ったはずの二人の距離は、わずかな時間で不思議なほど近付いていた。「魚釣りをしていたら女の子が釣れちゃった!」という、わりと定番っぽいガールミーツガール的な導入なんだけど、細かい演出が良いなあと思います。小春の登場によって、まだ寒い海に春の到来を思わせたりだとか、二人の名前をあわせて"小春日和"なのとか……粋ですよね。冒頭の[――私の父は とても変わった人だった]と[――新しくできた家族は とても変わった女の子だった]とか、対になるシチュエーションや言葉のリフレインは各話でも都度効いてきます。ここでは亡き父から教わったフライフィッシングが紡いだ二人の関係なんですよね。きっと、いとでつながってる。いつも天真爛漫に振る舞う小春ですが、彼女もまた小さい頃に事故で母親と弟を亡くしていて、ふとした瞬間に覗かせる寂しげな表情が切ない……いきなり水着で海に飛び込もうとするのも、ちょっとおバカさんなのかな?と思いきや"小さい頃は喘息もちでよく入院していて、外遊びを知らない" って一誠さんの話から察するに、三月の海の冷たさも知らないんだろうなあと……でもそんな小春だからこそ、よく知らない人が苦手なひよりとも初対面で距離を縮めることができたのかもしれません。これから二人の思い出をたくさん作っていってほしいです。そして、忘れてはならない人物がもうひとり。幼い頃から時間を共に過ごし、ひよりを近くで見ていた吉永恋。元気に笑っていた顔も、物憂げに海で佇む背中も、一番近くで見ていた恋ちゃん。お父さんを亡くしたひよりは当然めちゃめちゃ悲しいし寂しかったはずだけど、それを見て何も出来なかった恋ちゃんもかなりキツかったのではないだろうか……ひよりはもっと恋ちゃんを頼ってくれ…… 妹みたいに思ってたひよりに義姉ができたことを知った恋ちゃんの感情……私には友達の資格がない、って思ってる恋ちゃんの感情……でもひよりは一緒に来られて嬉しいって思ってて、それを義姉の小春に教えられた恋ちゃんの感情……日焼け対策よ、って表情を隠すサングラスと日傘使ってるけどショートパンツな恋ちゃんの感情……この辺は光と影を感情と絡めた演出が良いですよね……いやでもカラーページの海で佇むひよりのもの悲しい雰囲気すごくない?あの感じを目の当たりにしちゃったらそりゃ話しかけられないよな……感情……すみません取り乱しました私は恋ちゃんの感情に真剣なんだ恋ちゃんが勝手に距離をとってしまっていたけれど、釣りに一緒に来られて嬉しいっていうひよりの笑顔は本物で、ここでは小春を通して三人の絆が紡がれました。基本的にはこの三人の感情に重きを置いて描写されていますが、親も人間。愛する人を失った悲しさ寂しさは今の家族も、お別れした家族も抱えているはず。"笑顔でいれば"というのはみんな同じなのかもしれません。寂しい気持ちを置き去りにせず、一緒に生きてゆく。簡単に忘れたり乗り越えたりできるものではないからこそ、みんなで大切にあたためてゆっくり家族になってゆく。そんな彼女たちの様子を、傍らからそっと見守っていきたいと思わせるやさしい物語です。
スローループ
レビュー(60)件
既刊9巻
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