作品数:1
ファンになる1937年の出版以来、世界中で愛読されている傑作ファンタジー『ホビット』をビジュアル化したもの。挿画担当はスティーブンソンの『宝島』の絵物語化も手がけたデイヴィド・ウェンゼル。原作を忠実に短縮したもので、コマ割りの絵にふきだしのセリフという構成は、ストーリーを追いやすい。古風なペンタッチと水彩の画風は、トールキンのつくりあげたファンタジーワールドを期待する人を裏切らないだろう。 <p> ファンタジー劇画として年少者も十分楽しめるのはもちろん、トールキンの諸作の読者にとっては、50と半年を過ぎた主人公は、またイギリスの幼い少年たちが必ず夢中になる怪物トロルとは、いったいどんな姿なのか、自分の想像の世界と比べるのも一興だろう。 <p> 絵心のあった原作者トールキンは『ホビット』初版本の表紙の下絵をフルカラーで描き、重要な場面のいくつかを色鮮やかなスケッチで残している。その一方で、「ほかの人の心や手が、絵を描いたり、音楽や劇にしたりする余地が残されていなければならない」と述べていた。こんな「絵物語版ホビット」もむしろおもしろがったかもしれない。(祐 静子)