突然心の声を“百合だけ”受信する能力を得た、落ちこぼれエスパー・銀。聞こえてきたのは友人・彩里(さいり)と恵夢(めぐむ)の甘々百合!? どうにか2人の恋を成就させたいが恋愛経験0な銀は、個性の強い生徒たちと交流して、2人が付き合うように尽力するのだった…。
漫画家・鬼龍駿河(その他の作品:『乙女ループ』『カントリー少女は都会をめざす!?』等)の描く、友人の恋路見守り系エスパー百合漫画。 ーーー【あらすじ】ーーー 百合限定で心の声(百合の波動)を勝手に受信する能力に目覚めたらエスパー少女の銀は、友人の彩里(さいり)と恵夢(めぐむ)が両片思いであることを知ってしまい、百合の波動がもたらす砂糖を吐きそうな甘い空間に日々苦しむことになる。状況打破を目指し、二人をくっつけようとするのだが……。 ーーーーーーーーーーーー 仮にAというジャンルがあるとします。そのAというジャンル内の表現の幅が徐々に硬直化し、新鮮な作品が出てこなくなった時。多くの場合、A+BやA×Cのように、既存の他要素を投入することで、異なる視点・価値観を付与し、斬新な設定の構築や閉塞感の打破が見込むことができます。ジャンルミックスはアイデアの源泉ですね。 これに当てはまるのが、近年の百合漫画界隈。ジャンルとしての百合漫画(ガールズラブ)は古くからあるため、段々煮詰まってきている(目新しさがない)状況を打破しようとしているのか、近年は、稀に見る勢いで成長・進化&深化しているジャンルと認識しています(あくまで体感ですが)。 特に、1ジャンルとしての百合漫画だったものが、他ジャンルへと越境又は他ジャンルを取り込むことで様々に細分化され、ゾンビ映画よろしく、ジャンルの坩堝の様相を次第に呈してきています。いいぞもっとやれ! 前置きが長くなりました。 本作は、所謂「百合の間に挟まる男or女」というネットミームをもとにして、「百合の波動を受信したところ、両片思いの友人二人が自分(主人公)を"挟まる女"的ポジションに見ている事が発覚」という、不本意極まりない状況に身を置くことになった主人公が、やたらと甘ったるい二人の百合の波動に辟易し、どうにかくっつけようと悪戦苦闘する、恋のキューピッド役の苦悩を描いたコメディです。 本作が普通の百合漫画の枠から脱する(=独自性を持つ)ためにとったジャンルミックスは、例えば『戦争×サスペンス』や、『ゾンビ×ラブコメ』のように、一大ジャンルをわかりやすく混ぜるような派手なことはありません。むしろ、かなりささやかに"ちょい足し"している程度です。 どんなちょい足しかというと、以下のような点でしょうか。 ・百合当事者ではなく友人を主人公としている。 ・主人公がエスパーである。 ・メタ的視点で百合を評する登場人物を絡める。 ・明確にコメディを意識している。 このような要素を交えることで、当事者の恋愛模様とは異なる視点から百合を眺める、観測者としての百合を楽しめるわけです。……それって、百合好きの普段の姿と変わらんか。 なんやかんやと書きましたが、作品全体について簡単にまとめますと、1冊完結のコンパクトな物語の随所に、クスッと笑えるコメディを散りばめた作者のユーモアセンスが楽しめる良作である、ということでしょうか。 向き不向きはありますが、比較的万人にオススメできる軽い口当たりの作品ですので、百合漫画好きの方を筆頭に、ご興味ある方は是非お読みください。
by オレンジ (4)