バンコクではいかにも怪しい日本人の「社長」になけなしのお金をだまし取られ、インドの安宿では日がな1日ハシシュをふかして過ごす中年男性と出会い…。 <p> ビデオカメラを片手に、ボスニアやアルバニアの戦火をくぐり抜けてきたジャーナリストが、アジアの旅で見つけた人々との出会いを描いたエッセイの第2弾である。ここに登場するのは、誰もが今の日本の尺度で言えば、「負け組」に属する人々。多額の借金から逃げ回っている者、どん底の貧しさの中でずるさとたくましさを身につけた者、人生の目的を失ってただドラッグにはまっていく者。そんなアジアにうごめく「パー」な人々を見る著者の目には、どこか諦めにも似たやさしさがある。 <p> 著者自身が、若いころからアジア各地を放浪し、ドラッグ中毒から地獄のような貧乏生活まで、身をもって体験しているからだろうか。どんなに人間としてダメな人と出会っても、著者は目を背けず、その人と深くつきあうことで相手を掘り下げていき、その人の人生を鮮やかに描き出す。こんなに変な人がいました、と通り一遍に紹介をした笑えるエッセイではなく、自分の有り金も、生活も、神経すらもすり減らすようにして人間とかかわってきた著者だからこそ書ける、深みのある文章が心に残る。 <p> 本書のイラストは妻である漫画家、西原理恵子によるもの。「離婚してやる」と何度も何度もマンガの中で言いながらも、精神病院に入院してしまった夫・鴨ちゃんを温かく見守るサイバラの姿が美しい。(和久 裕子)