この漫画のレビュー

5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
3.92

211件の評価

5.0

6巻まで読みました

ストーリーは所謂“日常系”で、ずっと田舎で同年代の友達が全くいない環境で育ってきた主人公・明日小路が、中学進学を機に母の母校である少し都会のお嬢様学校を受験し、学友と親交を深めていくというものです。
小路は少し幼く感じるほどの無垢さと、表情豊かで感情を全身で表現してしまうような可憐さがあり、少女の魅力を存分に積め込んだようなキャラクターです。この小路の溌剌とした魅力にクラスメイトたちも心を開いていき、いつしか彼女は学園の中心になっていきます。また作中には学友だけでなく、小路の家族も頻繁に登場するのですが、これがまた愛に溢れたキャラクターばかり。特に小路の妹の花緒はあまりの可愛さに登場する度、悶絶しています。この作品のあまりにも優しく美しい世界観には、ついつい憧憬の念を抱いてしまいますね。本当にほっこりする癒し系漫画です。
ここまでストーリーの魅力について語りましたが、このような純真な少女たちのちょっと百合風味な日常系漫画は比較的珍しくないので、他のありふれた作品との差をそれほど感じないかもしれません。ただこの『明日ちゃんのセーラー服』は、とんでもなく絵のクオリティが高い!漫画で「絵のクオリティ」に触れた場合、大抵は緻密さや描き込みの多さについて述べられますが、この作品はむしろ大胆ですっきりとした印象を受けます。優れている点は“演出”や“技法”の部分ですね。主人公の小路はアイドルが大好きで、作中にはダンスを踊ったり、ポーズを決めたりするシーンが多々あるのですが、あえてコマ割をせずに1ページまたは見開き丸々使って、体育の教本のように1つ1つの動きを細かく描写したり、逆にグラビアのようなイラスト一枚絵をドーンと載せたり、時には要のシーンだけカラーにしてみたりと漫画ではあまりやられない表現をバンバン使っています。これは作者の博先生が元々アニメーターを目指されていたからこそ思い付いた手法かもしれませんね。加えて、連載の媒体がページ制限のないWEBであること、また展開の少ない日常系漫画であることとも非常に相性の良く、素晴らしいアイディアだなあと思います。絵のタッチも髪1本1本の流れが分かるほど、細かな線で描写した絵があると思ったら、ベタ塗りで光と影のコントラストだけを表現した絵などコロコロと変化しますし、構図も俯瞰絵や子どもの低い目線から見上げるようなものなど、とにかくいろいろな発見があり、素人目にも楽しくなる作品ですね。
ぜひ、いろいろな人にオススメしたい漫画です。

惚れた

4.5

日常系の作品は数多くあるが、この作品はその中でも意欲的であり、試験的であり、実験的であり、挑戦的であり私の中ではかなり新しい風を感じて注目している。まずコマ割りにメリハリが上手い。基本的にサイズの大きいコマに背景を含めて多くの情報量を詰め込み、逆にサイズの小さいコマは背景が空白で情報量を意図的に少なくしている。そしてその大小をバランス良く織り交ぜることでメリハリを出している。次にコマの1つ1つの描き方。まるでスナップショットのような感じで動きのあるシーンもどこか写真的な静的さを感じる。言わば先ほどのコマ割りと合わせてスナップショットの連続で物語が構成されているかのようで非常に新鮮味があった。そして最もこの作品の魅力を引き出しているのが絵である。線の多めの絵ではあるが無駄な線がない。もっと線を少なくして1つの線に膨大な情報量を詰めて描く人もいるが、今作では線をある程度多くすることで全体としての情報量の密度を高めている。それゆえにその場面場面での状況だけでなく感情や空気感みたいなものまでしっかり伝わってくる。これは日常系の作品としては非常に重要な要素だと思っている。この作品はまるでアルバムを眺めているかのようだ。過ぎ去った過去をみているのに、確かにそこに時間が流れている。私が時々自分の青春時代を思い出すような感覚と同じものをこの作品を読んでいて感じる。日常というのは少なくとも未来ではないし、現在でもない。時間軸的には恐らく過去だろう。過去は結構曖昧で思い出しても本当にそうだったのか?と疑問に感じることがある。しかしこの作品は上記した要素を詰め込むことで過去に確実性を持たせている。安直に言えばリアリティだろうか。だからたぶん自分が経験した青春自体も嘘ではなく本当のものなのだろう。完全なSF作品と違いこういった日常系は現実世界との境界が薄い。それでも漫画としての嘘は多くある。そんな中でもこの作品は最初に書いたように意欲的に現実世界との境界を破ろうとしていると感じた。最後に。私が日頃読む本のほとんどは哲学書である。そんな私がこの作品を自分なりの視点で感想を書いてみた。その点だけ了承願いたい。

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