空気の底で蠢くちっぽけな人間たちの世界。息が詰まるような日々の暮らしの中で、若者たちの満たされぬ愛と、やり場のない怒りが、しだいに人々を追い詰めていく……! 「プレイコミック」創刊時から月1回掲載された『空気の底』シリーズを中心に、手塚氏本人もお気に入りという熱のこもった問題作を多数収録した異色の短編集! <手塚治虫漫画全集収録巻数>『空気の底』シリーズ(手塚治虫漫画全集MT264『空気の底』収録)/『処刑は3時におわった』(手塚治虫漫画全集MT261『時計仕掛けのりんご』収録)/『おそすぎるアイツ』(手塚治虫漫画全集MT284『サスピション』収録)/『聖女懐妊』(手塚治虫漫画全集MT261『時計仕掛けのりんご』収録)/『帰還者』(手塚治虫漫画全集MT261『時計仕掛けのりんご』収録) <初出掲載>『空気の底』シリーズプレイコミック掲載 「ジョーを訪ねた男」1968年9月25日号/「野郎と断崖」1968年11月25日号/「グランドメサの決闘」1969年3月10日号/「うろこが崎」1969年6月10日号/「夜の声」1968年10月25日号/「そこに穴があった」1969年8月10日号/「カメレオン」1969年12月13日号/「猫の血」1969年10月10日号/「わが谷は未知なりき」1969年9月10日号/「暗い窓の女」1969年7月10日号/「カタストロフ・イン・ザ・ダーク」1970年2月14日号/「電話」1969年11月10日号/「ロバンナよ」1970年3月14日号/「ふたりは空気の底に」1970年4月11日号/『処刑は3時におわった』1968年6月号 プレイコミック掲載/『おそすぎるアイツ』1968年8月号 プレイコミック掲載/『聖女懐妊』1970年1月10日号 プレイコミック掲載/『帰還者』1973年1月13日号~1月27日号 プレイコミック掲載
いましろたかし最初期の連載作品である「ハーツ&マインズ」と「ザ☆ライトスタッフ」を一挙再録。さらに、単行本未収録だった短編4本と、松本大洋、糸井重里、新井英樹、松尾スズキ、呉智英といった多数の著名人からの祝辞を追加収録した、題名どおりの豪華な作品集。 <p> 「ハーツ&マインズ」では、若者、というには少しだけ年をとってしまった登場人物たちの、なさけなくてかっこ悪い日常がギャグタッチで描かれる。安アパートで夜ごと「もてたい」とうめく日払いバイトの男。はっきりと人にものが言えず小心者で、いつも貧乏くじを引かされるまじめな青年。あまり深くは考えないが行動力だけはある、焦燥感むき出しの自称硬派…。 <p> いましろたかしの描くこれらの男たちは皆、「おかしいなら笑えよちくしょう、こういう風にしか俺は生きられないんだよ!」という魂の叫びを発している。だから、他人とのかかわりあいや世間との折りあいについて、少しでもつまづいたり悩んだことのある人なら、彼らの行き様に胸を打たれるところがあるに違いない。あまりにも自分の本音に素直で、嘘をつけない彼らは、社会的にははみ出し者だが、実はとても男らしいとすらいえるのだ。せつなくも熱い男気が、おかしくも胸にしみる。 <p> 「ザ☆ライトスタッフ」は「ハーツ&マインズ」と登場人物が一部重複しているので、ある意味続編といえるが、前作のヒリヒリした緊張感が緩和されている分、枯れた穏やかさがたち込め、こちらもまた実に味わい深い。追加収録の短編では、どうでもいいように見えるけどやっぱり深い人生の隙間が垣間見える。この一連の作品群の中には流行も幻想もカリスマもいない。ここにはただ、男の真実のブルースがあるのみだ。(横山雅啓)