虫と歌

市川春子

3.89

6014

発刊:2009.11.20 〜

完結・全1巻

『虫と歌(1)』巻の書影
ぽんぽんさん、他2人が読んでいます

この漫画のレビュー

5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
3.89

137件の評価

4.0

1巻まで読みました

このレビューにはネタバレを含みます。

星の恋人
この作者の初期の方の作品だと思われるが既に個性に溢れていて独特の空気感を確立しているのはさすが
科学的な異生物を巡る繊細な心移り、素朴な絵柄ながらも起こる急展開、モノクロだからこその映える演出、リアリティがないのに感情移入してしまう関係性など、この作者の醍醐味が存分に詰まっていて、この一貫した魅力に息が漏れ出てしまう。
そして変わらず会話の節々にユーモアが溢れていて少し笑いも漏れ出てしまう作風なのもやはり良い。
この作者の創る設定や展開の起伏はワンパターンと思われるかもしれないが、あくまでこれらの特徴的な話作りは前提のモノであり、それを踏まえた上での結末の描き方や、ドラマの部分は作品ごとに違った切なさと穏やかさを生み出すので、まったく飽きない。
この作品のラストシーンでは珍しく無機物的ではない生々しさがあり、相変わらずの歪さを感じ、印象に残りやすい作品となっている。

ヴァイオライト
花札ような草木の描き方と漫画のコマ割りの組み合わせが秀逸で、一般的に時間の経過や読む順番を表すコマに手前に存在する木がぶち抜かれているページが特に好き。
しかしこの作者の作品によくあることだが、流動的でない漫画という芸術の限られたパーツの中でストーリーを理解するのが難しい描き方をしている。作品にとって必要な表現や演出を優先した結果であるからか読者に優しくない漫画の書き方をしている。
ただ、この描き方でないと作風が崩れるという危惧もあるので一長一短といったところ。
この短編は特に顕著で、一度読み通すだけではストーリーの展開の理解が追いつかない。
何度かページを戻して読むとある程度把握できたが終盤はいまだに納得しきれていない。
主観で内容の意味や意義を考察するような野暮なことはしたくないが、この物語は必要になるかもしれない。
まあ、そのような必要性など意識せず感覚だけで読んでもなんとなく凄いという感想を抱けるのは、この作品の力なのだと思う。

日下兄妹
類を見ない爽やかさを持った作品となっているのは野球部と故障という現実感と青春感のある導入だからだろうか
今回の異生物は箪笥から出てきたモノで、日本家具のような和風のデザインで構成されているのは趣深い
そして次第にマスコットのような愛らしさを帯びて成長して万能になる様子とヒナの正体は今までにないようなシュールさがある。
なによりこの作品で一番引き込まれたのは、孤独な故の思考を持つ主人公の高校生が空しい理由で野球に打ち込んでいたという分かりやすくも悲しい背景。
そしてそこから繋がるヒナの行動と主人公の選択、思春期らしい感情に人間らしさが見えてきて面白い。
この話が一番好みかもしれない。

虫と歌
多分この話が本当の最初期の短編みたいだが、掲載順的に割と予想できるストーリーだったのは、単にこの作者に慣れたからなのか、この展開自体がわかりやすかったからなのか
どちらにせよ作者の良さは変わらず出てるので良し
作中でそんなファンタジーな話が…というツッコミや、生き別れの双子の兄というちょっとしたボケなど、ちょいちょいアイロニックな要素があってわらってしまった。
兄のこれまでの実験で亡くした子たちに対する虚しさが湧き出てくるシーンは何とも言えない感情が湧き出てくる。
しかしラストシーンの意味は分かりにくく、自分も理解できいないので、これに関しては感覚で捉えるのではなく改めて意味を考える必要があると感じた。

ひみつ
この短いページの中におかしみと不思議の素敵さが詰め込まれている。
短い時間で感嘆してしまう何気ないが凄い作品

1

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