1993年から1999年に発表された11の短編を収録した黒田硫黄の第1短編集。デビュー作「蚊」、カラー作品「西遊記を読む」、漫研時代の作品「熊」「南天」、同タイトルの手塚治虫作品のカバー「メトロポリス」、よしもとよしともと原作による「あさがお」など、初期のさまざまな試みを堪能できる。そのほか描き下ろし作品「まるいもの」、あとがき、雑誌「ユリイカ」に掲載されたエッセイ「西遊記とわたし。」も収録されている。 <p> 印象的なのが、「象」をモチーフにした2作品。ひとつは、同棲相手に家財道具と共に逃げられた少女が隣の部屋に巨大な象がいることを知り、心を寄せてゆく「象夏」。もうひとつは、やはりアパートで象を飼っていた男が、散歩の途中で鯨を飼っているという少女と出会う「象の散歩」。 <p> 象という多大な重量を持った「野生」が都会の日常のなかにあることの違和感と、大きなものに圧倒される心地よい興奮が押し寄せてくる。どちらの作品でも、主人公たちは象を手放さねばならない状況に陥り悩むものの、最終的には「象は象でやってくさ」(「象の散歩」)と拍子抜けするほどにさっぱりと、象に別れを告げる。黒田作品全体に流れる、物事に拘泥せずに手放す潔さ、すがすがしさを強く感じさせる。象の荒々しく、どこかなまめかしくもある姿を最高の構図で表現する画力も見事。筆を多用し、黒々とした線で描く黒田独特の技法も、象という素材とぴたりと合っている。(門倉紫麻)
まっすぐで不器用な、少年と、少女と、大人たちへ。新しさとノスタルジア。仙台発の若き気鋭、初の作品集。Web Mediaマトグロッソにて掲載され反響を呼んだ5作品に加筆し、さらに完全描きおろしの表題作「空飛ぶくじら」を収録。【各界絶賛!】松本隆(作詞家)“ごく稀に絵の具と筆で詩を書ける人がいる。スズキスズヒロもその一人だ。”石山さやか(漫画家)“次はどんな主人公で、どんなお話なんだろう。フリーハンドで描かれる、人生のひとかけら。”【収録作品】『木村先生』いつから人は大人になるの?大人になるってどういうこと?進路を決めかねている高校3年生のカホが、夜の公園で木村先生に教わったことは…。『銃声を削り出す』とある工業高校のはみ出しグループ、その筆頭・住田は正義感が強く仲間思い。しかし退学後ヤクザに身を落とし消息不明に。そして18年たち、住田は帰ってきた…。『TRAINSPOTTING』鉄道ファンで「撮り鉄」のさえない高校生いちろうは、チャットで知り合った女性・ハナに会うべくにひとり上京しオフ会に参加するが…。シネマオマージュシリーズ第1弾。『TAXI DRIVER』カーレースに魅せられた少年、卓也と進一。親友だった2人を、やがて運命が引き離し翻弄する。シネマオマージュシリーズ第2弾。『KIDS RETURN』マイペースな小学生・エツコちゃんが、行方不明と思われ捜索されているとも知らず、森林公園で動物たちと触れ合っていたら…。シネマオマージュシリーズ第3弾。『空飛ぶくじら』誕生日プレゼントとして、5歳の愛娘こはるから「そらとぶくじら」が見たいとねだられた教授は…。『銃声を削り出す』のキャラクターも登場する描き下ろし。